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◆日本ポピュラー音楽学会第26回大会
【関東地区】
◆第1回研究例会
日時:3月30日(日) 15:00〜18:00
会場:立教大学池袋キャンパス 本館(1号館)1204教室
※NEWSLETTER101号に報告を掲載
修士論文・卒業論文発表会
「アニソンクラブイベント研究〜交差するオタク系文化とクラブカルチャ〜」
浅野裕貴(東京藝術大学音楽学部 音楽環境創造科4年)
アニソンクラブイベントとは、DJがアニメソングを中心とした楽曲をかけるクラブイベントである。本研究では、アニソンクラブイベントを対象とし、オタク系文化とクラブカルチャーの交わりについて論じる。フィールドワークやインタビュー調査などを踏まえ、相反するものとされてきていた両者の結びつきをアニソンクラブイベントの歴史的変遷を紐解きながら明らかにする。
「電子楽器のUIデザインとユーザー理解~ユーザーの内在的理解によるUXの向上〜」
増田健人(東京工科大学大学院 バイオ情報・メディア研究科 メディアサイエンス専攻 修士課程2年)
近年、音を電子情報として扱うことで電子楽器は自由なインターフェースをデザインすることが出来るようになった。新たなインターフェースをデザインする場合、ユーザーのインターフェースに対する慣れなど、技能と環境との文脈を理解することが重要である。ユーザーの理解という点ではインタラクション・デザインなどユーザーを巻き込んだインタラクションな開発も行われているが、そういったデザインを行ったにも関わらず、失敗するものと成功する製品が存在する。そこで本研究では、普及に成功した製品と失敗した製品におけるUIのデザイン手法・ユーザー理解に対するアプローチにどのような相違があるのか、両者を、比較を通じて問題点を検証し、それを元に実際にUIのモデルを制作する。
【関西地区】
◆第1回研究例会
日時:2014年2月9日(日)16:00~18:00
会場: キャンパスプラザ京都6F第2講習室
※NEWSLETTER100号に報告を掲載
研究会「聴覚障がい者にとってのポピュラー音楽」
登壇:大川豪(神戸山手大学卒業生)、森田雅子(大阪市立聴覚特別支援学校 校長)
司会:長崎励朗(京都文教大学講師)
ポピュラー音楽文化から「音」の要素を除くと、何が残るだろうか。言うまでもなく、ポピュラー音楽文化は音楽そのものだけで成り立っているわけではない。歌詞やライブパフォーマンス、ミュージシャンたちの発言、衣装など、音そのもの以外に様々な要素がその大衆性を支えている。しかし一般に、それらは音楽に付随するあくまで周辺的なものであるとみなされる傾向がやはり強いのではないだろうか。
今回の研究会にお招きするゲストスピーカー、大川豪氏はそんな一般の常識が通用しにくい環境下で音楽を愛好する人物である。大川氏は生まれつき、両耳感音性難聴を抱えている。両耳感音性難聴とは、聴覚神経の異常によって、小さな音はほとんど聞きとれず、逆に大きな音は健聴者並にうるさく感じるという聴覚障がいの一種である。高度な補聴器を用いることで、音楽を楽しむことはできるが、それでも通常の難聴とは異なり、周波数ごとに聴こえ方は随分異なるという。つまり、我々から見れば音楽そのものを消費することが極めて困難な状態に置かれているのである。にもかかわらず、大川氏は神戸山手大学に提出した卒業論文「パンクロックと耳聴こえない僕」においてポピュラー音楽文化に対する愛情を吐露している。
ではいったい、大川氏はどのようにして音楽を楽しんでいるのか。この問いは聴覚障がい者が物理的にどうやって音楽を聴いているか、というプラクティカルな疑問の答えを明らかにしてくれるとともに、ポピュラー音楽文化における「音」以外の要素を抽出し、その大衆性について議論する契機にもなるはずだ。
さらに、本例会では聴覚障がい者に対する音楽教育にも焦点を当ててみたい。聴覚障がい者が自身の障がいを認識し、音楽に関心を持つためには聾学校などにおける特殊な教育が不可欠である。その教育プロセスについて現状を知り、議論するために、今回は大阪市立聴覚特別支援学校の校長を務める森田雅子氏をお招きする。森田雅子氏は、特別支援学校の教員を務めるかたわら、大阪教育大学の修士課程に在籍した、いわば聴覚障がい者教育のプロフェッショナルである。その豊富な経験をもとに、森田氏には、現場でどのような音楽教育が施されているかを語っていただく。
以上のように本研究会は、ポピュラー音楽文化における「音」以外の要素を浮かび上がらせることを目的としているが、それによって、「音」そのものが持つ意味もまた、逆照射されるはずである。研究会を通してポピュラー音楽が持つ魅力の本質に迫る議論の展開が期待される。
◆第2回研究例会
日時:3月22日(土)14:00分~18:00分
会場:関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1408号室
※NEWSLETTER101号に報告を掲載
修士論文・卒業論文発表会
「「韓流ドラマ」「K-POP」にせまる政治の影」
三好明日彩(神戸山手大学現代社会学部)
「冬のソナタ」が大ヒットした2003年から始まったとされる韓流ブームは熱く、その間日本国内では、韓国ドラマやK-POPの勢いは止まることを知らなかった。韓国は海外に進出するK-POPや韓流ドラマを金銭面で援助している。これは大成功を果たし、多くの日本人、特に女性を虜にした。そして、その女性が虜になっているドラマやアイドルのCDやDVDが売れるだけでなく、韓国への観光客も増加し、日本はみるみるうちに韓国の国策に飲み込まれた。しかし、2012年8月10日に李明博(イ・ミョンバク)前大統領が竹島に上陸したことから、日本と韓国の関係は一気に悪化した。この政治の問題が文化にも影響をもたらし、韓流の人気も随分落ちたように感じる。本報告ではこうした一連の韓流ブームをさまざまな角度から考察する。
「浜崎あゆみ―絶望の果てに見つけた居場所」
大野紋佳(神戸山手大学現代社会学部)
本報告は浜崎あゆみという人物と、彼女が歩んできた歌手活動の中の葛藤や歌詞の意味を分析・研究したものである。歌詞の解釈やインタビュー記事の分析を通じてうかびあがってくるのは、歌姫という一見華やかな肩書の裏で、たびたび歌詞に登場する「もう一人の自分」に象徴される常に何かに葛藤している複雑な心境や姿である。そうした様々な葛藤や戦いの中で、彼女が見つけた居場所とは何か。年齢や経験と共に変化する歌詞や彼女自身について考えたい。
「パンクロックと耳聴こえない僕」
大川豪(神戸山手大学現代社会学部卒業生)
一般に聴覚障がい者といえば、全く耳が聴こえないと思われがちだ。しかし、障がいの種類は多様であり、補聴器をつけるなどの工夫をしながら音楽を楽しんでいる聴覚障がい者は意外に多い。本研究では、様々な聴覚障がいの内実を明らかにしたうえで、自身の体験に基づいてポピュラー音楽文化の魅力にせまる。音が「普通」には聴こえないからこそ、見えてくるポピュラー音楽文化消費のありかたを明らかにするのが本研究の目的であるといえる。
「少女からバンギャへ―戦後の女性向けポピュラーカルチャーとしてのヴィジュアル系」
ジョンソン・エイドリエン(京都精華大学大学院人文研究科修士課程)
本論文では80年代後半に登場したヴィジュアル系という音楽が戦後の女性向けポピュラーカルチャーにどのような影響を受けたかについて調査を行う。今回の発表ではこうした影響の一つとして、ヴィジュアル系の特徴である反覇権的な男性性に焦点を当ててみたい。ヴィジュアル系のパフォーマーは主に男性だが、ファンは男性より女性が多い。ライブに「参戦」するファンを見ればこのジェンダー相違がよくわかる。つまりヴィジュアル系の男性性のイメージは主に女性ファンに消費されているのである。そのため、ヴィジュアル系における男性性のパフォーマンスを戦後の女性向けポピュラーカルチャーとのつながりのなかで考えてみる必要があると思われる。
「日本における「UKロック」の誕生と変遷」
今東昇吾(関西大学社会学部)
現在、日本の洋楽リスナーにとってUKロックは人気のあるジャンルの一つであると言える。アメリカにも、カナダにも、オーストラリアにもロック音楽の文化は存在する。しかし、日本ではイギリスのロックだけがUKロックというジャンルとして定着している。本稿では、日本の音楽シーンにおいて「UKロック」という言葉がいつ誕生し、そしてどのようにリスナーに受容されていったか、その言葉の持つ意味合いの変遷の過程を、主に雑誌の記事分析とインタビュー調査によって明らかにする。そして、UKロックが多様な意味を持つようになった背景を考察する。
「震災がもたらした精神的影響―ヒット曲の分析を手がかりに」
石河壮太朗(関西大学社会学部)
震災は、人々にどのような精神的な影響を与えるのか。本研究は、阪神淡路大震災から東日本大震災後に至るまでのヒット曲の歌詞分析を手掛かりに、震災が人々の価値観や感情など精神的側面に与える影響を明らかにする試みである。3つの仮説、①「震災以降、恋人ではなく、同性の友人や家族の人間関係がより強固になる」、②「震災以降、励ましなどのポジティブな曲が共感を得る」③「震災以降、欲求や行動が主体的、積極的になる」を検証する。
「中国の若者におけるジャニーズアイドルの受容」
劉羽潔(関西大学社会学研究科マス・コミュニケーション学専攻修士課程)
韓流や欧米文化に囲まれる中国のメディア環境の中で、日本におけるメジャーなジャニーズ文化が中国ではサブカルチャーのような存在である。日本のアイドルファンについては一般人にあまり知られていない。それにもかかわらず、中国には少なからずジャニーズファンが存在する。中国の女性ジャニーズファンを対象として、インタビュー調査を実施し、ファンの日常的な行動を考察していく。また、台湾のジャニーズファンおよび中国の韓流ファンとの比較研究を行い、中国におけるメディア環境およびファンの特性を検討する。
◆第3回研究例会
日時:7月19日(土)17:00~20:00
会場:関西学院大学 大阪梅田キャンパス 1403号室
※NEWSLETTER102号に報告を掲載
南田勝也(著)『オルタナティブロックの社会学』合評会
書評:増田聡(大阪市立大学)、安田昌弘(京都精華大学)
応答:南田勝也(武蔵大学)
司会:永井純一(神戸山手大学)
「波」から「渦」へ、「表現」から「スポーツ」へ――。1990年代以降のロックミュージックの歩みを社会学/美学/メディア論等の知見によって検証し、2010年代の触知的テクノロジーの音楽消費を問うた研究書『オルタナティブロックの社会学』(花伝社)の書評セッションを開催いたします。書評者として音楽学者の増田聡とメディア研究者の安田昌弘が、著者として南田勝也が登壇し、永井純一が司会を務めます。奮ってご参加ください。
◆第4回研究例会
日時:2014年10月19日(日)14:00~17:30
会場:関西学院大学梅田キャンパス 1404号室
「社会関係資本と集合的記憶
―『メモリースケープ』、『「つながり」の戦後文化史』を素材に―」
登壇者:小泉恭子(大妻女子大学准教授)、小川博司(関西大学教授)
長﨑励朗(京都文教大学講師)、輪島裕介(大阪大学准教授)
司会:鈴木慎一郎(関西学院大学教授)
「音楽は人をつなぐ」という言葉は、一見単純に思えるが、様々な課題を包含している。どんな音楽が、誰と誰を、どのようにしてつないでいるのか? また、その「つながり」はどのようにして形成され、どの程度の持続性、発展性を持っているのか?
本研究会では、『メモリースケープ―「あの頃」を呼び起こす音楽』(みすず書房)の著者、小泉恭子氏と、『「つながり」の戦後文化誌―労音、そして宝塚、万博』(河出書房新社)の著者、長﨑励朗氏を招き、これらの問題について議論を深めることを目的としている。昨年刊行されたこれらの著作は、互いに異なるアプローチをとりながらも、ともに音楽と社会関係資本の問題に迫ったものだ。
小泉氏によれば、世代を超えて歌い継がれる「スタンダード・ミュージック」よりも特定の世代にだけ共通する音楽である「コモン・ミュージック」の方が集合的記憶とリンクしやすいため、特定の世代を結びつける傾向が強い。記憶の中でその背景として流れていた音こそが、現代の年配世代を結びつける鍵になっているというのだ。
一方、長﨑氏のまなざしは、過去そのものへとむけられている。現在の年配者たちがまだ若かったころ、1950年代から60年代半ばにおいて、リアルタイムの「つながり」を担保していたのは、「教養」という高級文化への憧れであったという。小泉氏の析出した集合的記憶の源泉を探る研究として位置づけることができよう。
その他にも、両者の議論は「つながり」のメカニズムにおいては「世代」と「階層」に、手法面においては「記憶」と「記録」にそれぞれ力点をおいている。このように、隣接しながらも複数の異なる観点を持った研究を同時に検討することで、ポピュラー音楽と社会関係資本の関係、およびそこに作用する集合的記憶の力学に関する議論をより深化させることができるはずだ。
評者を務めるのは、メディア文化研究、音楽社会学を専門とする小川博司氏と、演歌の研究で知られ、「ワールド・ミュージック」に関する言説にも明るい輪島裕介氏である。2人の評者が加わることで、ポピュラー音楽を空間的広がりによって捉える視点の導入も期待される。
以上のような布陣で様々な観点からポピュラーミュージックと社会関係資本、そして集合的記憶の問題について議論を尽くす例会としたい。
【中部地区】
◆第1回研究例会
日時:2014年11月2日(日)13:30~17:30
会場:愛知県立大学・県立芸術大学サテライトキャンパス
愛知県産業労働センター 15階
※NEWSLETTER103号に報告を掲載
「ジンバブエ・ポップスの基層音楽「ンビラ」の文化」
松平勇二(名古屋大学博士研究員)
ジンバブエはアフリカ南部の内陸国である。この国を代表するポップスに「チムレンガ・ミュージック」(闘争音楽)がある。この音楽が「闘争」と言われる理由には、音楽を用いた黒人の政治闘争がある。ジンバブエでは約90年間にわたって人種差別支配がおこなわれた。ショナ族出身の歌手トーマス・マプフーモは伝統音楽に合わせて政治的メッセージを訴え、自らの音楽を「闘争音楽」となづけた。本発表で分析するのは、彼の音楽の元となったラメラフォーン(ンビラ)の音楽である。マプフーモの歌詞は確かに政治的である。しかし、ショナ社会では歌うこと、音楽を演奏すること自体が政治的意味を持つのではないか。ジンバブエ中部のニャンドーロ地域でおこなわれる憑依儀礼は、政治的要素、宗教的要素、音楽が複雑に交差する儀礼である。憑依儀礼で演奏されるンビラ音楽を分析し、ショナ社会における音楽の政治性と宗教性を考察する。
「Led Zeppelinの傑作 “Whole Lotta Love” のルーツを辿って」
宮崎尚一(愛知県立大学非常勤講師)
1969年にリリースされた無敵のモンスターアルバム “Led ZeppelinⅡ”の1曲目に収録されている “Whole Lotta Love”は、今もなお多くのアーティスト、グループに影響を与え続けている、ロック史上稀な偉大かつ完全無欠のハード・ロック・チューンである。この曲のメガ・ヒットにより、デビューしてほんの1年足らずで Led Zeppelin はロック・バンドの頂点に君臨し、不動の人気を得たのである。米国においては The Beatles の後を受け継いで1970年代を代表するロック・バンドの覇王と見做された。
しかし、この楽曲は Led Zeppelin によって純粋なオリジナル作品として創作されたのではなく、明らかに彼らが好んでいた特定アーティストの作品、スタイルを模倣して作られたということも良く知られている。これをまさに「盗用、欺瞞」だと騒ぐ人たちもいるが、そういった批判が彼らの伝説を覆す程までにはけっして至っていない。それどころか、今日のデジタル時代において、彼らの作品が改めて正しく理解されることを目的に、バンド・リーダーのJimmy Page氏によりLed Zeppelinの音源すべてが新たにリマスターされ、2014年6月から各アルバムが順を追って発売されている。そしてそれを追うようにして、ロック系音楽雑誌の多くが Led Zeppelin の特集を組み、Led Zeppelin ブームが再来しているのである。
これを契機に本発表では、ハード・ロック・チューンのアンセムでもある “Whole Lotta Love”を、そのルーツとなる関連音源を実際に聞きながら、可能な限り詳細な分析を試みたい。その際、Led Zeppelinの楽曲を長年歌い続けてきたヴォーカリストとしての経験が発表者の視点を強く規定していることをご了解願いたい。