モッシュが発生する時、何が起きているのか?

会場:友愛館Y-004教室・15:20〜16:00

中野太郎(大阪大学大学院文学研究科音楽学専攻M1)


ロックのライブにおいて、オーディエンスが密集地帯で押し合い、フロアで自由に暴れ、リズムに合わせて飛び跳ねるといった光景がしばしば見られる。そのような行為は「モッシュ」という名前で呼ばれ、一般化している。それは元々1980年前後の英米圏のパンクシーンに始まりを持つ文化であり、90年代を通して日本を含めた世界の各地、特に英米圏のロック文化の影響を受けた地域、コミュニティに波及したものである。

モッシュが発生する現場で怪我を負うことは日常茶飯事であり、過去に死亡事故さえ起きている。ライブハウスやロックフェスの会場では、モッシュやダイブを禁じ、もし発生してもその際に起きた事故について運営側は責任を負わない、といった内容の注意書きを見ることができる。しかし、それでもモッシュは発生し続けている。バンド側もテンポを落とす、リフが変わるなどのモッシュを誘発するような楽曲構成の工夫をおこない、ライブ中には明らかにモッシュを煽るようなパフォーマンスを行うのである。

そういった状況下では、もはや演奏されている楽曲を“集中的に聴く”ということは難しい。例えばアルバムを一枚じっくり聴くといったような没入型の聴取からかけ離れていることは明らかであるし、モッシュ以前のロック・ミュージックのライブにおけるオーディエンスの享受の仕方と比較しても異質なものである。

例えば、1969年に開催されたウッドストック・フェスティバルでは観客は演奏される楽曲に対して没入型の聴取の姿勢が多く見られるが、1994年の同名フェスのオーディエンスは時にステージ上のアーティストに背を向け、与えられるリズムに合わせて(場合によってはリズムなどおかまいなしに)暴れまわるのである。こういった“ノリ方”の違いは南田勝也の「オルタナティブロックの社会学」でも言及されていることである。

本発表では、モッシュという行為が行われることによって、その空間(ほとんどがライブ会場だろう)にもたらされるものは何か、ということを議論の中心とする。ここではフリスが指摘している、ロック音楽における「レコードの再現としてのライブ」というあり方とは異なるライブ・パフォーマンスとその参与のあり方が現れているのである。クラブミュージックにおけるダンスとの比較や、モッシュが発生した経緯と小規模なシーンから起こったその文化が大きく広がっていく過程などにも触れながら発表を進めていく。