同人音楽の歌姫による自己の表現

会場:友愛館Y-005教室・16:00〜16:40

藤下由香里(大阪大学大学院文学研究科博士後期課程)


これまで同人音楽研究では、メディアやネットワーク、ジャンルの特性といったものについての論述が多く、パフォーマーに関する研究はなされてこなかった。現在のところ、オタク系同人作品の傾向は、男性が女性へ抱く性的なイメージによって作られた作品や、女性向けのやおい系作品の創作が多数を占めている。同人音楽においても青年男性が中心となって創作活動が行われてきた経緯があるが、2000年代以降、女性が主体となった同人音楽活動もみられるようになった。その中での女性の活動というのは、男性向け作品や、やおい系作品を創作するというよりは、オリジナルストーリーを音楽で表現した作品創作を活動の目的としているように見受けられ、他の同人を取り巻く状況と一線を画した様相を呈している。男性からの性的視線に従属するわけでもなく、やおい系作品を創作するわけでもないこれらの女性による同人音楽活動に目を向けることの意義は十分あると考える。本発表では同人音楽が創作される中で看過することが出来ない「歌姫」としばしば呼称される女性アーティストが行う自己表現に着目したい。

同人音楽作品において、歌唱部分を担当するのは女性が圧倒的に多い。前述のとおり2000年代以降の同人音楽シーンでは、歌姫と呼ばれる者達が自らが主体となって同人サークルを運営し、作品の中枢となるオリジナルストーリーを作り、歌唱のみならず、作詞や作曲も担当することも多くなってきた。それらの同人音楽作品を創る中で、アーティストたちはCDのジャケットやブックレットに多様なキャラクターイラストを掲載したり、声色を変化させた歌唱法を用いたりしながら、自己をキャラクター化し、ストーリーの登場人物を描き分けるのである。同時に歌姫としての自分を隠し、作品の世界を構成する要素という面を持ち合わせる。この点は特徴的だといえる。

以上のことを踏まえつつ、本発表では片霧烈火や霜月はるかなど同人音楽シーンにおいて歌姫としばしば呼ばれるアーティストと、同時期にJ-popシーンで活動していたアーティストで身体性の希薄さが大衆に提示される浜崎あゆみや、あるいはあらゆる声色によって歌唱を行うアニメ声優などの比較を行う。そして同人音楽における歌姫の自己を表現する時の特殊性や、主に日本の他の音楽シーンで活躍する歌姫との相違点や連続性があるのかどうかについて検討を行う。