スタジオ・レコーディングのゆくえを、レコーディング・スタジオで考える

会場:友愛館Magi Sound Studio・10:00〜13:00

中伏木寛(司会):京都精華大学
中村公輔(問題提起者):ミュージシャン/レコーディングエンジニア


1. 問題設定

21世紀に入ってから、スタジオ・レコーディングによる音楽制作をめぐる状況は大きく変容した。中でも目を引くのが、レコード産業の最盛期を支えた大手スタジオの相次ぐ閉鎖である。大規模なスタジオの経営が成り立たなくなりつつある中で、レコーディングという営み自体の存続が問われている。

その背景には技術的側面と産業的側面が指摘できる。DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)の低廉化やDTM(デスクトップ・ミュージック)の発達により、従来スタジオで行われていた録音・編集作業の大部分がパソコン一台で対応できるようになったことで、楽曲のスタイルによっては商業作品であってもスタジオを使用しないことも現在では少なくない。それと並行して、レコード産業の不況による制作費の削減が進んでいる。音楽プロデューサーの佐久間正英は自身の経験をもとに、かつて1,000万円以上を費していたアルバムのレコーディングを数十万円でやり繰りしなければならないケースもあると述べている。そして佐久間は、音楽制作におけるスタジオの衰退やDTMへの移行とともに、そこで培われた知識や技能が受け継がれず失われていくことを危惧している(佐久間ほか2015、21〜29ページ)。

音楽を生み出す環境という観点からスタジオのあり方を考えるには、採算性のような産業的問題や、テクノロジーと歩みをともにする音楽様式の変化といった問題だけでなく、「空間」としての側面にも目を向けるべきである。望ましい音が得られるよう設計されたスタジオを使いこなし、音の質を高めるための知識は、その場で鳴り響く音を聴くという経験を通じて習得されてきた。音楽制作がスタジオから切り離されることによって、その空間と結び付いた「良い音」をめぐる感性もまた根本的な変質を余儀なくされるだろう。しかし、今や採算の成り立たないレコードを古き良き時代の遺産として懐かしむばかりでなく、スタジオという空間を音楽的知の源泉として再評価し、その意義を音楽文化の現状に位置付けなおしていく取り組みもまた、将来のために必要なことではないだろうか。

そこで本ワークショップでは、スタジオの響きやその空間の使い方を実際に体験しながら、これからのレコーディング・スタジオについて議論する。専門家同士のみ理解可能な高度な知識の交換ではなく、より開かれたスタジオのあり方を体現するような場となることを期待したい。

2. ワークショップ内容

ワークショップは、京都精華大学音楽コースの実習施設であるMagi Sound Studioで行う。音楽コース設立当時の教員だった佐久間正英が生前に設計を監修し、2014年4月に設立された同スタジオは、レコーディングルームの一角にレンガを積み、ドラムの音を反響させて録音できるようにするなど、歴史的なスタジオに準じた音響空間を実現している。

中伏木による趣旨説明(上記1の内容)の後、中村がMagi Sound Studioの音を体験するデモンストレーションを行う。使用するマイクの種類やマイクを立てる位置によって、同じ楽器の演奏でも録音される音の質は変化する。また、直接楽器から発せられる音だけでなく、室内で響く音を収音することで、楽器音に空間的な要素を付加することもできる。こうした空間の使い方と、レコーディング・スタジオの空間的側面が音に与える効果を例示しつつ、「本格的なスタジオだからできること」や「スタジオでなくてもできること」を解説する。

以上をふまえた上で、音楽制作におけるスタジオの意義をめぐって、参加者同士による自由な討議を展開する。

参考文献

佐久間正英、榎本幹朗、山路敦司、水島久光「ポピュラー・ミュージックの終わりとはじまり ―― 音楽と産業の現在」、日本記号学会編『音楽が終わる時 ―― 産業/テクノロジー/言説』、東京:新曜社、2015年、21〜58ページ。