The Japanese Association for the Study of Popular Music

2012年第3回関西地区例会

関西地区で、修士論文発表会を下記の通り開催します。

日時: 6月30日(土曜)17時~19時30分
会場: 関西学院大学 大阪梅田キャンパス 14階1404号室
(大阪市北区茶屋町19-19アプローズタワー14階 受付TEL: 06-6485-5611)
アクセス: 阪急「梅田駅」茶屋町口改札口から北へ徒歩5分。
JR「大阪駅」御堂筋出口から徒歩10分、地下鉄御堂筋線「梅田駅」から徒歩7分、「中津駅」から徒歩4分。
地図: http://www.kwansei.ac.jp/kg_hub/access/index.html

発表1: “Well, You Needn’t”――セロニアス・モンク、アミリ・バラカ、公民権運動におけるジャズのポリティクス
発表者: 山田優理(同志社大学大学院グローバルスタディーズ研究科博士後期課程)
要旨:
本研究は、ジャズ・ピアニストであるセロニアス・モンク(1917−1982)が20世紀を代表する黒人作家・音楽批評家であるアミリ・バラカ(リロイ・ ジョーンズ)によってどのように表象されたか、また、モンク自身は自らの人種及び音楽の社会運動における役割をどのように把握していたのかを比較、考察するものである。
 ブラック・アーツ運動の立役者であるアミリ・バラカが1960年代に取り入れた政治的急進主義の視点からジャズ批評を試みるという手法はそれまでリベラルな白人が多数を占めてきたジャズ批評界を震撼させたが、アヴァンギャルド・ジャズという同時代の音楽と政治的に結びついて一定の勢力を誇った。この時代にバラカが積極的に音楽批評を試みるようになった理由には彼の政治思想がニューヨークのダウンタウンを中心としたボヘミアニズムから黒人ナショナリズムへと移行しつつあったことが背景にある。黒人独自の政治意識および美的観点の構築を試みたバラカは、アヴァンギャルド・ジャズはビバップの後継者だと主張することで自らが率いる政治運動の正当性を証明しようとしたが、この言説においてモンクはジョン・コルトレーンと並び重要な位置を占めた。
 一方、一般的に政治には無関心であると認識されていたモンクだったが、彼の言動を詳細に分析してみると、そのような言説が必ずしも正しいわけではないことが証明される。むしろ、他の黒人演奏家同様、モンクが公民権団体の主催する慈善コンサートに参加したという事実は彼の社会運動に携わりたいという意識の顕れともみてとれる。であるがしかし、本研究では、演奏家達の慈善コンサートへの参加は、彼(女)らの政治意識の高さを裏付けるものでは無く、公民権運動のような社会運動の勢力の絶大さ、政治が芸術創造活動に与える影響の強さを示しているとする解釈を試みた。演奏家から社会勢力への視点の転換は、偉人列伝を中心に据えたジャズ史を肯定するか否かという問題を巡り方向性が見出せなかった近年のジャズ研究に新たな可能性を提示するものであると主張し、本研究のまとめとしている。

発表2: クルーナー唱法の生成――アメリカ合衆国における音楽・メディア・社会
発表者: 福永健一(関西大学大学院社会学研究科マス・コミュニケーション学専攻博士後期課程)
要旨:
本論は1920年代後半頃、アメリカ合衆国において生じた、ポピュラー音楽の歌唱法であるcrooning(クルーナー唱法)およびその歌手を指すcrooner(クルーナー)についての研究である。クルーナー唱法は、「電気マイクロフォンの登場によって可能となった、男性による、小声でささやくような歌唱法」というのが一般的な認識である。
本研究では、クルーナーがテクノロジーに依存した歌唱法である、というようなナラティブとは異なった議論を展開する。特に1929年に登場した、最初のクルーナー歌手であるとされる、Rudy Valleeに着目する。当時のアメリカ社会は、消費社会が立ち現れ女性が消費者として明確に想定されるなど、「女性」が発見された時代である。その一方でマス・メディア産業、特に音楽、映画、ラジオといった諸産業が重層的、多元的に編成されてゆく。そのような、アメリカ合衆国において生じていた地殻変動を歴史的に敷衍し、社会的コンテクストからクルーナー唱法が生成されてゆく様を論証することが本論の目的である。

問い合わせ先:安田昌弘(研究活動担当理事)
yasuda_at_kyoto-seika.ac.jp (_at_をアットマークに変えてご送信ください)