The Japanese Association for the Study of Popular Music

2017年度第1回中部地区例会

2017年度第1回中部地区例会
日時:2017年11月11日(土) 13:30〜17:00
会場:椙山女学園大学・星が丘キャンパス 国際コミュニケーション学部棟 010教室
名古屋市千種区星が丘元町17番3号
地下鉄東山線「星が丘」駅下車、6番出口より徒歩5分
http://www.sugiyama-u.ac.jp/univ/access/

 

研究発表(13:30〜15:20)■
1. “ Led Zeppelin” 究極トリビュート・アーティスト:ジミー桜井&ジョンジー大塚
発表者:宮崎尚一(愛知県立大学〔非常勤〕)
2. 「シティ・ポップ」的なるものをめぐる地政学
発表者:水川敬章(愛知教育大学)

 

映像視聴およびクロストーク(15:30〜17:00)■
オーディエンス/ファンの想像力 〜村山和也監督作品『堕ちる』をめぐって〜
登壇者:村山和也(映画監督)/広瀬正浩(椙山女学園大学)

 

研究発表要旨
1. “ Led Zeppelin” 究極トリビュート・アーティスト:ジミー桜井&ジョンジー大塚
発表者:宮崎尚一(愛知県立大学〔非常勤〕)
本発表においては、英国を代表する伝説のハード・ロックバンド、「レッド・ツェッペリン」(1968年-1980年)のリード・ギターリスト、ジミー・ペイジを完全に模倣する究極トリビュート・ギターリスト、ジミー桜井の演奏に着目する。
現在米国で活動中のジミー桜井が一時帰国したこの夏、2017年8月15日(火曜日)に、東京築地にある大人向けライブハウス「ブルー・ムード」にて、日本を代表するレッド・ツェッペリンマニアのメンバーともに、レッド・ツェッペリンの全盛期1973年の欧州ツアーを再現するスーパー・セッションが急きょ行われた。ベースとキーボードはジミー桜井と「MR.JIMMY」(現在活動休止中)で活動を共にしたジョンジー大塚が担当し、ドラムスはジョンジー大塚と共に「王様の日本語直訳ツェッペリン研究会ライブ」に参加しているセッション・ドラマー乙部ヒロが担当、そしてヴォーカルは発表者自身(元祖レッド・ツェッペリン・トリビュートバンド「CINNAMON」の初代ヴォーカリストのSHO)が担当した。突然のライブの告知にもかかわらず、「Jimmy SAKURAI & FRIENDS / スーパーZEPセッション」のチケットは即完売した。当日の演奏は,長年のレッド・ツェッペリンマニアにとっても,これまでに経験したことのない非常に斬新かつ新鮮なものとなった。
ジミー桜井とジョンジー大塚は、長年の間、ブートレッグを含む莫大な量のレッド・ツェッペリンの音源およびライブ映像を繰り返し視聴・研究してきた。本家の演奏を忠実に再現するために、楽曲を細部にいたるまで分析し、楽器・機材にもこだわり、特にジミー桜井はステージ・アクションから衣装まで、本物と寸分違わないものになるまで追及している。ジミー桜井のギター・プレイをライブで観ているオーディエンスは、自然と彼をレッド・ツェッペリンというユニットで演奏しているジミー・ペイジとまさに同一視してしまうのである。これはもはや「トリビュート」という次元を逸脱し、一つの「アート」として捉えることができると言ってよいだろう。
2012年10月15日、ジミー・ペイジがプロモーションで来日した際に、彼自身が実際にMR.JIMMYのライブを観ており、ジミー桜井のパフォーマンス、そしてジョンジー大塚氏のプレイは、ご本家であるジミー・ペイジ御大から高く評価されている。発表者自身も、ライブ本番数日前に行われた限られた時間(約2時間30分)でのリハーサル、そしてライブ本番の演奏においては、彼ら二人が生み出す「本物の蘇生」を試みるサウンドには、終始圧倒されるばかりであった。まさにレッド・ツェッペリンのライブ演奏を聴いているような錯覚に陥ったほどである。実際に発表者自身が録音した今回のライブ音源を聴いていても、本物の演奏との違和感をほとんど感じさせないほどのクオリティの高さである。
本発表では、今回の「ブルー・ムード」でのライブ音源・映像を交えながら、ジミー桜井、そして彼を陰で大きく支え続けているジョンジー大塚にも焦点をあてながら、究極トリビュート・アーティストのこだわりについて報告してみたい。

 

2.「シティ・ポップ」的なるものをめぐる地政学
発表者:水川敬章(愛知教育大学)
本発表は、1970年代中頃以降に発表された日本のポピュラー音楽で、とりわけ「シティ・ポップ」というカテゴリーに関わる楽曲や現象などについて、以下に示す問題点から議論を行うものである。
たとえば、2017年8月号『ユリイカ』のcero特集に寄せられたエッセイの中には、誰もが予想するように「シティ」、「東京」というキーワードが登場していた。また、2017年7月には、音楽プロデューサー 牧村憲一を中心とした執筆陣による『渋谷音楽図鑑』(太田出版、2017)が上梓された。この書籍は、「渋谷」という地域を基点に、牧村の仕事の語り直しと具体的な作品分析を通じて、日本のポピュラー音楽の一部の歴史を再配置=再構成してみせた。これらの言論は、無論「渋谷系」という基軸から読解することもできるが、またその一方で、昨今の「シティ・ポップ」と称される音楽カテゴリーのコンテクストから読むこともできる。このような立場に依拠すれば、「シティ・ポップ」と呼ばれる音楽現象に対する言表やイメージが、東京という地域(都市)に収束する様を、あるいは東京という都市のイメージが特権化されていることを、これらの言論から看取できる。
また、この見立てに拠れば、これら言論を以下のように整理することができる。前者は、Yogee New Wavesやevening cinemaなどの謂わば「現在」の「シティ・ポップ」(的)表現との関連性と新しい音楽性をめぐる価値の拡張への理路を含み持つ言論であり、後者は、その前史たる「シティ・ポップ」の起源と確立をめぐる物語の構築によって「現在」への回路を持たせようとした言論である、と。したがって、『ユリイカ』のcero特集と『渋谷音楽図鑑』という例から垣間見られるのは、「シティ・ポップ」というカテゴリーの「シティ」の意味内容がとりわけ「東京」という固有名詞と取り結ぶ関係性、更には、それがカテゴリーに属する音楽と取り結ぶ関係性の力学である。本発表の関心は、ここにある。
本発表では、この問題点を議論するために、①シュガー・ベイブ、山下達郎、ブレッド&バター、南佳孝、センチメンタル・シティ・ロマンスなどのバンドやミュージシャンの作品や自家解説、②それらに対するメタ言説、③牧村などミュージシャン以外の当事者の発言、④「シティ・ポップ」というカテゴリーに関する言説、⑤「シティ・ポップ」に関連するキータームや事象――例えば、「Light Mellow」(金澤寿和)、「70’S VIBRATION」(2015年8月〜 同年9月)などを具体的な分析対象とする。これらを横断的に検討することで、1970年代中盤以降に展開された音楽に対する価値規範の形成に関する政治学の一側面を明らかにする。加えて、それら音楽から聴取者がイメージした「シティ」と、音楽やミュージシャンたち表現との緊張関係についても併せて議論する。
なお、本発表は、名古屋という「都市」とセンチメンタル・シティ・ロマンスの関係性について議論するための予備的な検討のひとつとなる予定である。

 

映像視聴およびクロストーク 登壇者プロフィール
村山和也(むらやま・かずや)
1982年生まれ。映画監督、映像ディレクター。2008年より映像ディレクターとしてMV・CM制作に携わる。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンCM・Web Movieや乃木坂46の個人PV、その他アイドルのMVなど。初映画監督作品『堕ちる』(2016年)が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017」オフシアターコンペティション部門 スペシャル・メンションを受賞する。
http://kazuyamurayama.com/about

 

問い合わせ先
広瀬正浩(中部地区例会担当研究活動委員)
mas[at]
sugiyama-u.ac.jp([at]を@に変えてご送信ください)