ファン活動による「ヴィジュアル系」の形成――「やおい」作品の受容から

会場:友愛館Y005教室・15:20〜16:00

鈴木翠(京都精華大学大学院マンガ研究科博士後期課程)


「ヴィジュアル系」とマンガ・アニメ等の「オタク向け」コンテンツとの親和性は、同音楽ジャンルの特性といえないか。これの成立には、ミュージシャン達による世界観の提示や2000年代以降のアニメ作品とのタイアップだけでなく、ファン達の活動の共通性も無関係ではない。大槻ケンヂは同ジャンルファンの一つの主流を、男性ミュージシャン達の関係を同性愛に見立てる「やおいファン」と語っている。例えばジャニーズなどのやおい作品に対する隠匿性とは異なる傾向であり、女性層の多い実在人物ファンコミュニティとしても特異である。例えば、1990年〜2007年間の雑誌「FOOL’S MATE」の読者投稿欄は、ペンフレンド募集などと共にファンの発行するミニコミ誌の紹介・通信販売の案内も多く掲載されており、やおい作品を掲載するものも少なくない。本発表では、同雑誌の読者投稿欄を分析し、「ヴィジュアル系」ファンコミュニティにおける「やおい」受容と、その嗜好によるファンコミュニティ内部への影響の変遷を追ってゆく。投稿数の統計によると、90年代初期には「X」「BUCK-TICK」を始めとしたやおい本が確認できる一方で、該当バンド名以上の内容を明示しない冊子の通信販売も多数掲載されている。やおいと明記された本の比率は90年代中盤に「LUNA SEA」メンバーのやおい流行から上昇している。ただし、ミニコミ投稿数自体は大きな増加を見せていない。この時期以降の特徴として、やおい・性描写の有無でなく、カップリング(以下CP)される人物名や「受/攻」といった性役割の表記が主流となっていった。詳細な内容説明はCPの多様化だけでなく、やおいファンの増加によって特定CPを核とする小規模コミュニティの形成が可能となったことも示している。読者投稿欄への投稿数はインターネットの普及した2000年代に減少の一途を辿っており、ミニコミ関連のものも例外ではない。しかし、やおいの比率は半数程度を保っており、時期ごとに新しいバンドが対象となっていた。

00年代後半〜現在では、同ジャンルだけでなく実在人物を描くやおい作品の流通は閉鎖的な傾向を強めている。その一方で、マンガ・アニメファンコミュニティにおいて「ヴィジュアル系」の受容が定着しているのは冒頭の通りである。これは、以前のファン達の活動によって形成されたイメージも無関係でないだろう。音楽ジャンルの成立へのファン活動の影響を再確認することによって、特定の傾向・区分で語られがちな「ファン」のジャンル横断性の分析を目指したい。