ブルデューの界理論に基づく現代日本のポピュラー音楽の界の構築

会場:友愛館Y-002教室・15:20〜16:00

平石貴士(立命館大学大学院社会学研究科後期博士課程)


本報告は、フランスの社会学者ピエール・ブルデューの界理論を使いながら、日本の商業音楽の界をマッピングすることを試みる。はじめに、ブルデューの界理論の要約を提示し、次にオリコン株式会社のCD売上げデータを元にサンプリングしたアーティストの位置空間についてのマッピングを行う。

界という概念は、ブルデューにおいて、ハビトゥス、資本、実践などの著名な概念と並ぶ中心的な概念である(『ディスタンクシオン』(1979=1991)『芸術の規則』(1992=1996))。界は、1)特定の資本(本報告の場合では音楽をめぐる経済的利益や名声)をめぐって闘争されている空間であり、2)この空間において各個人は位置(過去の売上量が与える名声や所属するジャンル)を持ち、3)その空間における位置が各個人の実践と戦略を決定する、という理論枠組みによって、空間内における各個人の行為を説明する理論モデルである。

本報告におけるポピュラー音楽の定義については、本報告がオリコンの売上データを使うという特性上、プロが生産し、メディアを通じて人々(大衆)が消費する、という定義を採用いている。したがって本報告における「ポピュラー音楽の界」とは、メディアを介して消費者に伝達される音楽財を専門に生産するアーティスト達が闘争している空間ということになる。

分析に使用したデータは、オリコンのシングルおよびアルバムのCD売上げデータの2009年から2014年までの311週の期間に週間ランキング50位までに入ったアーティストをサンプリングしたものである。その結果、1932名の邦楽アーティストが抽出された(ただし、日本国内に事務所を持つ韓流・台湾アーティストは含むが、国内に事務所を持たない洋楽アーティストは含まない。またアニメのキャラ名によって発表されたアニメソングは除外し、声優名で発売されたものは含めている)。なお、311週の50位の平均売上枚数はシングルで1592枚(標準偏差384)、アルバムで2194枚(標準偏差693)である。つまり、およそこの売上枚数を越えるアーティストだけがこの分析のためにサンプリングされたことになる。

このように抽出された標本集団について、売上平均枚数、シングルリリース数、事務所の本拠地、ジャンル、デビュー年の変数を用いて、多重対応分析という統計手法を用い、アーティスト空間のマッピングを試みた。その結果、売上の大小による軸とジャンルの希少性による軸の二軸によってアーティストの位置空間は構造化されていることがわかった。売上は少ないが出現確率が少なく、希少性の高いジャンル(ジャズおよびクラシック)と売上が多く、出現確率が高いために希少性の低いジャンル(ポップおよびロック)という対立構造が現れ、それらの間の中間的な位置に、レゲエ、電子音楽などのジャンルのアーティストが現れることになった。